「咲、ほんとにもう帰んの?」
ライブを終え、帰り支度を済ませて外履きに履き替える私に、永君が聞いてくる。
「これから後夜祭だぜ」
「私が後夜祭にはしゃぐタイプに見える?」
「全く」
「だろうね。疲れたし、今日はもう帰るよ。そもそも後夜祭を一緒に過ごすような友達もいないし」
靴箱の蓋をパタンと閉めると、永君は私を無理に引き止めることはしなかった。というより、
「じゃあ、俺も帰ろう」
なんて言ってきたのだ。
「えっ。永君は残りなよ。後夜祭、盛り上がって楽しいって聞くよ」
「俺が後夜祭にはしゃぐタイプに見える?」
「うーん? 微妙。でも、永君の友達は永君が帰っちゃったら寂しいでしょ」
そう言うけれど、永君はへらっと笑い、
「いや? 俺も友達いねーから」
と言うのだった。
「え? 嘘」
「嘘じゃないけど。寧ろ何で嘘だと思うんだよ?」
「だ、だって永君は私と違って明るいし……友達いない訳ないじゃん」
「友達いたらそいつらと放課後遊んでるわ。毎日毎日、咲と演奏の練習したりしてねーよ」
うーん? そう言われると確かにそう、かも?
わからないけれど、彼がそう言うのならそうなのだろう。
でも、本当に意外だ。永君も友達がいないなんて。
「あ、間違えた。友達、一人いたわ」
「え?」
「咲が友達だな」
「へっ」
うっかり間抜けな声が出てしまって恥ずかしい。
でも、嬉しい。友達なんてもういらないと思っていたけれど、今はその友達という響きが嬉しい。


