「俺はさ、ほんとは今日で最後にするつもりだったんだ」

ぽつりと呟くように、武入君が話し出す。


「今日、永がステージに立てるとは思っていなかったけど、それとは関係なく、今日が最後だなって。今日のステージは、永の為に最高の思い出を作ろうっていう目的の為に必死で練習してきた。それは凄い楽しい時間だったけど、やっぱり、そこに永がいないのは滅茶苦茶……辛いなって」


私も恵那子も瑠夏もその言葉を否定はしなかった。だって同じ気持ちだったから。だからただ静かに頷いた。

仮にメンバーから永君が抜けても、私達はずっと仲間だ。それは変わらない。

だけど……永君が抜けたseedsを続けたいとは思えないんだ。


すると、永君が「俺さ」と口を開く。

振り向くと、彼はとても優しい表情をしていた。
初めて会った時みたいな……病気の気配なんて微塵も感じさせない、そんな優しい顔。


「俺、皆のお陰で今日ここのステージに立てて、演奏出来て、これ以上ないってくらいに最高だった。後悔はない。だからこれできっぱり音楽を諦められる。本気でそう思ったんだ」


……彼がそう思えたのは、きっと悲しいことじゃない。寧ろ喜ぶべきことだと思う。だけど……彼のギターを聴けるのは本当に今日が最後だったんだと思うと、胸が締め付けられるみたいに苦しい。


……そう思ったのだけれど。



「けど、やっぱ無理だな!」

「え?」

「音楽から離れるのはやっぱり無理!」


今さっきまでの優しい笑顔から急に、幼い子供みたいに思いっ切り笑う。
不意打ちのその笑顔に心を奪われそうになる。
この笑顔を、ずっと見ていたいって思う。