その楽譜を、永君は凄く喜んでくれたみたいで、笑顔でずっと眺めてくれている。


「でもどうせなら、詞も書いておいてほしかったな」

「そ、それは」


楽譜を書く時、勿論それも考えたけれど……レイから合格をもらったその詞は、永君への想いを歌った、永君へのラブレターみたいなものだからそこには書かなかった。


「詞は、当日のお楽しみです」

「あ、なるほどね。そりゃあいっそう楽しみだ!」


……自分の気持ちにはっきりと気付いたからか、今までの何十倍も、彼の笑顔に惹かれる。


ねえ、永君。私の笑顔をいつも見てくれてたって本当?

私も、あなたの笑顔が大好きだよ。



その瞬間ーーやっぱり伝えたい。そんな風に思った。

気持ちを知られるのが恥ずかしくて詞を楽譜に書かなかったのに、自分の言葉でそれを伝えたいって、今強く思った。


恥ずかしいし、ドキドキする。だけど……いいよね? 悪いことする訳じゃない。



「永、君」

唇を震わせ、明らかに様子が変わった私を、永君が不思議そうな顔でみる。


「どうした?」

「私、永君に伝えたいことがあるの。私……私、永君のことがね……」


破裂しそうな心臓を必死で抑え、勇気を振り絞って紡ごうとしたその言葉は、彼からの「っ、待って!」という慌てたような言葉によって遮られる。


……どうしたんだろう。でも、彼の表情や様子からして、何だか嫌な予感がする。



すると彼は、ゆっくりと言葉を発していく。


「……俺、いつも咲のこと見てたよ。俺の自惚れでなければ、咲が今言おうとしたことが何なのか、わかってる、つもり」

「永君……?」

「だからその言葉の続きは言わないで。ごめん……聞きたくないから」