僕は死んだ。
あれは夏の日だった。じりじりと肌を焼く日の光と一緒に、乾いたアスファルトの上を歩いていた。
僕は二度とその感覚を感じられない。だって、死んでしまったのだから。
噂の通り魔に刺され、さらに世の中を騒がせた僕の死。世間は僕の死よりもよっぽど通り魔の方に関心があるようだ。
「その通り魔も捕まったらしいね」
君に語りかけたが、君は友人との話に花を咲かしている。内容は通り魔が捕まって安心しただとか、そういうの。その内容はすぐに終わって、女子らしい別の話へと変わっていった。

僕は君に恋をしている。けれど、想いも伝えることなく死んでいった。こんなことになるなら、と自分を恨んだが、こんな未来予想なんてできない。
きっと君の中の僕も死んでいくんだろう。通り魔が捕まったことで心底安心して、大人になっていって、きっと何年後かに「あんなこともあったね」と酒に浮かべるんだろう。
「僕は君のこと、忘れないよ」
僕は忘れない。この淡い青春をこの身に詰めて、ずっとあの夏に閉じこもり続けるのだから。
悔しいんだ、君に何も伝えられなかったことが。だからせめて、君をこうやって見守らせてくれないか。気持ち悪いだろうけど、僕に今できることと言えばこれだけなんだ。
見守るという建前と、いつか君に声が届くんじゃないかという本音。その間に立って、僕は君に今日も語り続けた。