それは数学の教科書を忘れて学校へ取りに戻った日のことだった。

校庭にはちらほらと運動部の生徒がいたけど丁度終了時刻らしく帰宅している生徒がほとんど、校内に残っている生徒はかなり少なかった。

教室へ行く途中、目を赤くした隣のクラスの女の子と擦れ違って察しはついた。



また黒瀬海斗への告白だろうと。



黒瀬くんというのは入学以来告白の耐えないイケメンで、非の打ち所のない王子様である。

人柄もよく、文武両道、おまけに家までお金持ちというのだから明らかに天は二物以上与えていると思う。

同じクラスで隣の席、という以外に接点もなく別世界の人間だって言われても信じてしまうくらいには現実離れしている。