薄暗い部屋の片隅にあるベッドの中


腕の中に私を収めて優しく髪を撫でてくれる渋谷が「本当に無かったんだね、調理道具」と言った私にハハッと声を出して笑った。

「言ったでしょ?男の一人暮らしなんだから必要ないって。」

そうかもしれないけどさ、湯沸かしポットが一つだけって…。


「渋谷の身体が心配だよ。栄養のあるものちゃんと食べてる?」

「ビール」

「却下。」

「麦だもん」

身体を起こして、上から私を見下ろすと軽く触れるだけのキスを落とす渋谷。


「じゃあとりあえず、近々この家の調理道具を買いに行きません?」

「うん。ハンバーグ、作らなきゃ」

言った私をまた嬉しそうに笑った。

ねえ、渋谷…



あなたに私がした事なんて、少し思い出した今でもやっぱり些細な事だったと思うよ。

それをあなたは、覚えていてくれて再び会いに来てくれた…。


私は凄い幸せ者だったんだね、そんな風に想って貰えるなんて。


不器用な私の事だからまたいつか、歪んで傷つけたり振り回したりするかもしれない。


それでも、自分の愛情とあなたの愛情を信じて、これからは私が渋谷が好きだと言う気持ちをあなたに贈れるように頑張るから…



「真理さん、泊まってく?」
「服が無いから…。」


二人で過ごせる時間をちゃんと大事にしよう。



「平気でしょ。誰も何も言わないよ。結婚するって知ってんだから」
「山田部長と二人きりじゃ恥ずかしい。」
「あ、仲人頼んどいたら?この際」
「…人ごと。」
「うん、人ごとだもん。服に関しては。」
「やっぱり、帰る」
「そこは人ごとじゃ無いから、帰さない。」



二人の、二人でしか作れない空間で、私はあなたと生きて行こう、これからをずっと。