じとっとした目つきで睨んでくるけど、本気で怒っていないことがわかる。
「桃ちゃんの可愛い冗談ってやつだよー。蓮の反応が面白いから、ついね」
「なにが可愛い冗談だよ。桃にはいつも振り回されてばっかりで……」
ブツブツと文句を言う蓮。
仕方ないでしょ。蓮の反応を見てると、もっとやりたくなるんだから、なんて蓮のせいにしてみる。
蓮は大きなため息を吐きながら、私の手をいとも簡単にほどいてプイと顔を背けた。
「拗ねないでよー! 謝るからさ」
「悪いと思ってないだろ?」
「え? まぁ、蓮だからね」
「……おい」
「うそうそ、冗談だよ。悪いと思ってる」
「ほんとかよ」
蓮の顔がこっちを向いて、拗ねた目を向けられる。子どもみたいで、なんだか可愛い。
他愛ないこんなやりとりが楽しい。
皐月といる時も楽しいけど、生まれた時から一緒にいる蓮とはまた違っていて。蓮といると落ち着けるというか、安心感があって心が安らぐ。
「で、どうなの? 好きな人、いるの?」
「桃には関係ないだろ」
「あるよ。幼なじみで家族みたいなもんなんだから」
「家族にそんなこと言うやつ、いるの?」
「いるよ! 今ここに!」
蓮はなにかを考え込むようにしばらく真顔で無言を貫いたあと、小さくポツリと言い放った。
「いるよ。だけど、誰かは言わない」
妙にかしこまって落ち着いた声だった。
いると言うと、私がしつこく名前を聞き出そうとすることを考慮しての返事。



