次の日の朝、珍しく早起きした私はいつもより早く家を出た。すると、ちょうど隣の家から出てきた蓮と出くわし、一緒に登校することに。

最近では行き帰りが別々だったから、こうして並んで登校するのはかなり久々だ。

「なんかあったのか?」

「えっ?」

「顔がゆるみすぎだろ」

「えー、そうかな」

自分ではまったくそんなつもりはないんだけど。

とりあえず「そんなことないでしょ」と、適当にごまかした。

蓮は少し髪が伸びて、珍しく今日はメガネをかけていない。聞いたところによると、最近ではコンタクトレンズを使うことが多いんだとか。

中学の時は『目がゴロゴロするからコンタクトは嫌だ』って言ってたのに、慣れてしまえばこっちの方が楽なんだって。

駅に着き、最近一番後ろの空いている車両に乗るようにしているという蓮に合わせて、ホームに立った。

するとすぐに電車がやってきて、私たちは吸い込まれるように一番後ろの車両に乗り込んだ。

後ろの車両に乗るのは初めて。ほかの車両よりも同じ制服を着た生徒がたくさんいて、いつもと違った景色が広がっている。

高校で新しくできた友達なのか、蓮は数人の男子たちのグループに向かって挨拶をしていた。

ほとんど知らない男子たちばかりで、蓮の世界も広がっているんだなぁということを実感する。

こっちを見てヒソヒソ言ってる女の子のグループがいて、どうやら蓮を見てきゃあきゃあ言ってるようだった。

私に対して鋭い視線が飛んできているような気もするけど、気にしないことにする。

「蓮は好きな人とかできた?」

「え? は? なんだよ、いきなり」

空いていた二人掛けの席に座った直後。カバンから参考書を取り出そうとしていた蓮の手がピタリと止まった。

そして目を見開いて私を見つめる。

「いきなりじゃないよ。高校に入ってから結構経つし、いてもおかしくないでしょ? 勉強ばっかしてないで、そろそろ恋愛に興味持ちなよね」

それで、どうなのよー?と、私はからかうように蓮の脇腹を肘で軽く突く。

「わ、やめろよ。おい」

「あは、相変わらず脇腹弱いんだ?」

焦って大きな身体をよじらせて私から逃げようとする蓮に手を伸ばして、脇腹をくすぐる。

「ぶっ、ははっ、バカ。マジ、やめろ」

「うふ。蓮がそんな反応するから、余計やりたくなるんだよ」

私は両手でさらにくすぐった。

「ははっ。おい……っお前なぁ、いい加減にしろよ」

手首をパシッと掴まれて動きを止められる。蓮の手は私の手よりもはるかに大きくて力強い。さすがに力では敵わず、おふざけはそこで終了した。