「どうして認めたくないの?」

「自分でもこの気持ちがなんなのかよくわからないし……私、映画館で水野君を好きになんて絶対にならない! って本人に宣言しちゃったのに……」

あれだけズバッと言いきったのに、今さら好きとか……。

ないない、ないでしょ。好きなんかじゃないよ。

「まぁ、人の気持ちは変わるからね。昨日は嫌いでも、明日は好きになってることなんてザラだよ」

「えー……そんなことないと思うけど」

なにかと理由をつけて否定する。だってやっぱり認めたくない。いや、認められない。

信じたくない、わからない。どうして水野君なのか。

「まぁ桃はお子ちゃまだからね。今はわからなくても、そのうちわかる時がくるよ」

「百合菜ってば、なんだかすごく大人な発言するよね。どうしちゃったの?」

「そりゃ私も恋してますから」

「えっ? うそっ!」

百合菜が恋してる?

「聞いてなーい! なんで言ってくれなかったの?」

興奮のあまり、ガラステーブルに手をついて、前のめりになりながら百合菜に詰め寄る。

「今日言おうと思ってたの」

「えー、相手は? 私の知ってる人?」

「同じクラスの剣道部の男子だよ」

頬をピンク色に染めて照れくさそうに笑う百合菜。

「へえ。どんな人なの?」

「えー? 恥ずかしいなぁ」

「いいじゃん、教えてよ」

「えー」

照れ笑いを浮かべる百合菜をからかいながら、根掘り葉掘り聞き出した。

頭の片隅には水野君のことがあったけど、考えたくない。

だって、考えてしまったら……。

えーい、やめやめ!

考えないに越したことはない。