自分で自分がよくわからない。だって、こんな感情は初めてだから。
このドキドキも、胸の高鳴りも、モヤモヤする黒い感情も、今まで感じたことのない〝なにか〟だ。
見ないようにしてみても全身のアンテナが水野君を探しているようで、意識しないようにしようと思えば思うほど気になって仕方がない。
頬の火照りをギラギラに照りつける太陽のせいにして、私は我慢できずにその場を離れて水飲み場へと走った。
グラウンドの隅っこの日陰に身を寄せて、水道の蛇口をひねる。両手のひらで水をすくってパシャパシャと顔を洗った。
はぁ、気持ちいい。
心なしか、頬の熱が冷めたような気がする。
顔を上げると瞬時に水野君が目に入り、さっきと同じようにボールを追いかけていた。
その水野君が途中でこっちを見た。そして遠巻きに目が合ったのがわかると、ドキッと鼓動が鳴って、再び全身に熱が注がれた。
居たたまれなくなった私は自分からプイと顔をそらし、もう一度冷たい水で顔を洗う。
もう、なんなのよこれは。
私、本当にどこかおかしいんじゃない?
「水野ー、おまえサッカー部に入れよ! すっげーうまいじゃん」
体育のあと、教室で同じクラスの佐々木君が水野君の肩を抱いた。佐々木君は、サッカー部に入っている爽やかなイケメン男子。
誰にでも分け隔てなく接して、明るくて。クラス内外を問わず友達が多い人気者。怖いもの知らずで、クールな水野君にもガンガン絡んでいく。
「部活してねーんだろ?」
「佐々木ー、やめとけよー。クラブユース出身者が、部活サッカーなんかやるわけねーって。俺らなんかとはレベルがちがいすぎるだろ」
「けど俺、水野とサッカーやってて楽しかったし。楽しけりゃ、なんでもよくねー? な、水野!」
無邪気に笑う佐々木君。すごい人だなぁ、無愛想な水野君にも普通に接してさ。人を苦手だと思う概念がないというか。
「悪いけど、サッカーはやめたから。もう二度とやるつもりもない」
淡々とそう返す水野君。あんなにうまいのに、やめちゃったんだ。
「もったいねー! なんでだよー! やろーぜー!」
「おまえには関係ないだろ」
そう言って佐々木君の腕を振り払うと、水野君は教室を出て行った。
ちらりと見えた水野君の表情。とてもツラそうに唇を噛みしめていた。