「で、実際はどうなのよ?」
「ん? なにが?」
数学の授業が終わったあと、次が体育なので皐月と更衣室へ向かった。中庭を抜けるのが体育館への近道なので、ジリジリと焼けるような暑さの中を歩く。
「なにがって、水野君のことだよ。ほんとはなにかあるの?」
皐月の顔は逆光で表情まではよくわからない。だけど、その声は弾んでいて楽しんでいるのが丸わかり。
「ないない、あるわけない」
太陽の光に目を細めながら思いっきり否定してみせる。
澄んだ空に入道雲がもくもくと広がっていて、まるで絵に描いたような空模様。
「なぁんだ、残念。でも、なにかあるなら教えてね」
「なにかって?」
「実は水野君のことが好きなの、とか」
「す、好き……!? そ、そんなこと、あるわけないじゃん! まったくもって、ありえないよ!」
テンパりすぎて、勢い任せに否定する。引いたはずの熱が再び戻ってきて、全身がカッと熱くなった。
「なに焦ってんのー? 面白いなぁ、桃は」
「あ、焦ってなんか……! 皐月が変なこと言うからでしょ」
「でも水野君って意外と男らしいじゃん。さっきのだって、桃を助けてくれたっぽいし。見直しちゃったよ」
水野君が褒められるのは喜ばしいことなのに、なぜだかモヤッとした。皐月には彼氏がいて、そんな意味で言ってるんじゃないってことはわかってるのに。