仕方ない、諦めるか。
どこをどう探しても見当たらなかったので、名残り惜しくもつり銭レバーに手を伸ばす。
「ったく、なにやってんだよ」
すぐ後ろでそんな声が聞こえて、伸ばしかけていた手が止まった。振り返る間もなく、スッと手が伸びてきてチャリンとコインを投入する音がする。
次の瞬間、自販機のボタンのランプが一斉に光った。
「早く選べよな」
どこか面倒くさそうな声で、横目に私を見下ろす彼。その表情は相変わらず淡々としていて、無愛想以外のなにものでもない。
だけどなんとなく温かさを感じるのは私の気のせいかな。
「聞いてんのか? 早くしろよ」
「えっ? あ……うん」
ハッとして慌てて目についたホットのボタンを押す。ガコンと音がして、どうやら飲み物が出てきたらしい。
「うわ、やっちゃった……」
ブラックコーヒーだよ、飲めないよ。
本当はココアがほしかったのに、急かされて慌ててボタンを押したからまちがえてしまった。
ど、どうしよう。
「なんだよ、まさかブラックが飲めないとか?」
「う、うん、そのまさかです……」
「はぁ、仕方ないな」
うっ、だって。
水野君はズボンのポケットを探って小銭を出した。そしてそれをリズムよく自販機に投入する。
「ほら、今度はまちがえるなよ」
「えっ?」



