「いやいや、だから……変わったと思わない? なにか私に言うことは?」
見せつけるかのようにして、蓮の前でわざとらしく髪をかきあげてフフンと笑ってみせる。
どう?
ちょっとは大人っぽくなったでしょ?
明らかに変わったよね?
「はぁ……? べつになんも変わってないと思うけど」
マジマジと私を凝視したかと思うと、蓮は眉をひそめながらそんなことを言う。
「えっ? 本気で言ってる?」
今月に入って新調したという黒縁フレームの眼鏡の奥の瞳は、うそを言っているようには見えない。
「うーん。身長が伸びたわけじゃないし、体重も減ってはなさそう。顔色だって、いつもとそう変わらない。なにが変わったんだよ?」
キョトンとしながら真剣な眼差しで私を見る。
どうやら本当にわからないらしい。
「ちょっと! 気づかないなんて、信じられない。蓮って、意外と人のこと見てないよね」
それだけ私には興味がないってことなのかな。
私の中ではとびっきりオシャレをしたつもりなのに、少しも気づいてもらえないのは寂しいものがある。
まぁ、メイクをしているわけじゃないし、顔の中身は代わり映えがないかもしれないけどさ。
それでも外見はずいぶん変わったでしょ。
普通は気づくよ。
「もういいよ、蓮のバカ」
そう悪態をつき、プイと顔を背ける。
外を見ると、川沿いを走っていることに気がついた。
川沿いにズラリと並んだ桜の木は、見事な桜の花を咲かせている。
数百メートル、いや、数キロ先まで綺麗に咲きほこっていて、思わず見惚れてしまう。
車でたまに走ったりもする場所だから、まったく知らない景色ではないけれど、電車から見るのと車からではまたちがって新鮮だ。
「綺麗……」
「だよなぁ」
独り言に反応した蓮をスルーして、どこまでも続く桜を眺め続けた。
川の向こうの道路は二車線になり、たくさんの車が行き来している。



