「夏目に好かれても嬉しくない」
淡々と、少しうっとおしそうに水野君が言う。きっと彼も思ったことがすぐ口に出るタイプなんだろう。
初日からストーカー扱いされたほどだからね。
「水野君って、なんでもはっきり言うよね」
「それは夏目もだろ。加えて、夏目は遠慮というものを知らないよな」
ああ言えばこう言う。どうして人の意見を素直に聞けないのか。
それに、遠慮を知らないのは水野君の方じゃない?
「水野君にだけは言われたくないな。でも、その髪型はほんとにいいと思ったから。ほら、あれだよ。サッカーやってます! って感じでさ。あ、実際にもやってたんだよね? 噂で聞いちゃった」
さらに目を細めてそう言うと、水野君からスーッと表情が消えていった。
「サッカー、ね……やってたけど、もう興味ねーよ」
水野君は小さくそう言って目を伏せた。神妙な面持ちで言うから、なんとなく気になって目が離せない。
さっきまで物怖じすることなくズバズバ言ってきていたのに、その勢いは急激になくなり、今の水野君はとても弱々しく見える。
一体どうしちゃったの?
私、またなにか余計なことを言った?
変なことを言った覚えはまったくないんだけどな。
サッカーという言葉に反応して、急に大人しく弱々しくなってしまった水野君をじっと見つめる。
その横顔にはどこか哀愁が漂っていて、なにかとてつもない悲しみが潜んでいるように見てとれた。



