「…………」

絶対に聞こえているはずなのに、水野君は私を見ようともしない。それどころか、表情ひとつ変えずにスマホを触っている。

「聞こえてるよね? 水野君」

「……なんだよ」

観念したのか、スマホから視線を私に移す。その顔はどう見ても迷惑そうな感じだった。

「おはよう!」

笑顔でにっこり微笑むと、返ってきたのは「はぁ」という深いため息だった。

「朝からため息吐いてたら幸せが逃げちゃうよ?」

「誰がそうさせたんだよ」

「えー、誰だろう? わかんなーい!」

冗談っぽく返すと、じとっと睨まれた。

前までの私なら、ここで怯んでなにも言えなかっただろう。でも今は言い返せるくらいの仲になったかなと一方的に思っている。

どうして私は水野君のことがこんなにも気になるのかな。構いたくなるのかな。普段なら、そんなことを思ってる人に自分から声をかけたりしないのに。

水野君は髪の毛がまだ少し濡れていて、いつもの無造作ヘアがストンとまっすぐに伸びている。

これはこれであどけなさが残る少年のようで、なんだかまたイメージが変わった。

「髪型そっちの方が似合ってるよ。私は好きだなぁ」

思ったことがすぐに口に出てしまう。

あまりよく考えずに発言してしまうから、蓮に呆れられることもしばしばだけど。

基本的にうそがつけないタイプだから、仕方ないよね。