「桃ちゃんは贅沢だねぇ」
「ほんとほんと! まさに理想の王子様そのものなのに。頭もよくて運動神経もいいし、文句なしのモテ男子って感じ」
「身近にハイスペック男子がいるなんて羨ましすぎるよー!」
蓮の素顔を知らない子たちがきゃあきゃあと騒ぎ立てる。
あー、この子たちに言ってやりたい。蓮は猫を被っているだけで、本当は王子様なんかじゃないんだよって。
この手の話題になった時、麻衣ちゃんも聞く側にまわる。彼氏がいないから話に入っていけないようだ。
「私たちだけ浮いてるね」
私の耳元でコソッと囁き、小さく笑う麻衣ちゃん。
仲間がいることにホッとしつつも、麻衣ちゃんならその気になればすぐに彼氏ができるのにと思う。
そのあとも何度か麻衣ちゃんと目が合って、私はその度ににっこり微笑み返した。
「このクラスの水野君も、須藤君と同じくらい人気があるよね」
一人の子が私の隣に座る水野君をチラッと横目に見ながら、小声でそんなことを言った。
イヤホンをしているとはいえ、すぐそばに水野君がいるからだろう。
机に突っ伏して寝ている彼に、その場にいるみんなの視線が注がれる。
水野君の話題が出たことで、なぜだか一瞬ドキッとした。
「あー、うちのクラスでも人気があるよ。クールで無口なところが、妙に女子ウケがいいみたい。でもみんな、話しかけにくいって言ってるけど」
「一匹狼なところとか、ツンとしてるところが好きっていう子もいるけど、あたしはパスかなー。愛想のない人はちょっとね。いくらカッコよくてもダメかな」
「えー、カッコいいじゃん! 顔だけなら全然ありっしょ!」
「うーん、無理だね」
「真正面からいってもスルーされるのがオチだよね。話しかけてもそっけないしさ」
「この前二年生のすごく可愛い先輩が告って、フラれたらしいよ」
知らなかった。
水野君ってそんなにモテるんだ?
二年生の可愛い先輩が……フラれた?
「うちのクラスのよしえちゃんも、水野君のことが好きだって言ってたなぁ」
「彼女とかいるのかな? 気になるー!」
彼女……。
多分この前一緒にいた子がそうなんだろう。
でもあまり人のことをペラペラ言うのはよくないし、なにより水野君はそういうのをとても嫌がりそう。
私はみんなの話に入っていけず、ただ黙って相槌を打っていた。