まさか話しかけてくるとは思ってなかったので、焦ってたどたどしくなってしまう。
「そう? なんか言いたそうな顔してるけど」
なんか言いたそうな顔って……。
私、そんな風に見えてるの?
水野君に見つめられると、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように身動きができなくなる。
なにを言われるかヒヤヒヤしているのもあるんだと思うけれど、まっすぐに見つめられると気まずくて仕方がない。
なにか……なにか話さなきゃ。
「そ、そういえばこの前はビックリしたよ! まさか映画館で出会うとは思ってなかったもん。水野君でもベタな恋愛映画なんて観るんだね! すっごく意外っていうか、案外ロマンチストだったりし——」
——ガタッ
そこまで言いかけた時、椅子が引かれる音と同時に鋭い視線が飛んできた。
余計なことをしゃべるなと、その瞳が言っている。
気まずさから逃れるために振った話題なのに、これじゃ逆効果だ。
だってだって、水野君との間に他に話題が思いつかなかったんだもん。
皐月は私と水野君が話していることにビックリしながらも、キラキラした目でなにかを期待しているような表情を浮かべている。
言っとくけど、なにもないからね?
「夏目には関係ないだろ」
心の中でそんな突っ込みを入れた時、水野君は冷たくそう言い放った。
そして、私に背を向けて教室を出て行こうとする。
よっぽど触れられたくないことだったのかな。
表情は険しいままだ。
ほんとにロマンチストだったりして……。