黒髪のボブカットの、大人しそうな女の子。
顔はよく見えないけど、全体的に細くて小さくて華奢な子だった。
どうやらデートで来ているようで、隣には彼氏らしき人が座っている。
小さな声でヒソヒソとやりとりをしていた。
目を凝らしてよく見てみると——。
ん?
あれって……。
水野君……?
女の子の隣に座っている人のシルエットが明らかにそうで、思わず足が止まってしまう。
水野君は女の子に対していつものぶっきらぼうなそぶりを見せることなく、真剣に耳を傾けて時には相槌を打ったりなんかもしている。
もしかして、彼女かな?
デートで映画を観に来たの?
彼女がいたことにビックリだけど、これだけカッコよかったら彼女がいても不思議ではない。
人に興味がなさそうなのに、意外だ。
でも恋愛映画とか観るんだ……?
さっきも会ったし、なんだか気まずいんだけど。
気づかれないようにそっと近寄り、女の子の右隣の席にストンと腰を下ろした。
「春ちゃん、今日はありがとうね。私のワガママ聞いてくれて」
「べつに、気にすることないから」
近距離にいるせいか、二人の話し声が聞こえてくる。
チラリと横目で見ると、無邪気な女の子の笑顔があった。
美味しそうにポップコーンを頬張っている。
愛嬌があって可愛らしい、か弱そうな子だ。