「水野君が寒いんじゃ……?」
「俺、暑がりだから意外と平気」
でも、今くそ寒いって、信じられないって言ったよね?
私に気を遣わせないように、平気だなんて言ったのかな。
よく見ると、水野君の体が震えていた。
やっぱり寒いんじゃん。
でも、その優しさが嬉しい。
「あは」
「なに笑ってんだよ」
今度はじとっと睨まれた。でも、口元はゆるんでいる。穏やかで優しい表情だった。
「ありがとう、水野君」
目を見つめながらニコッと微笑む。
「べつに」
照れくさそうにボソッとつぶやいた水野君を見て、私は再び笑ってしまった。すると今度は軽く頭を小突かれた。
「昨日、ちゃんと蒼と話した。俺はやっぱり、サッカーが好きだ」
「うん。知ってるよ」
水野君を見てたらわかる。
「俺、もう一回本気でサッカーをがんばってみようと思うんだ」
「うん」
「蒼と約束した。将来必ずプロのサッカー選手になって、日本代表としてワールドカップに出場するって」
そう語る水野君の瞳はキラキラとまぶしく輝いていて、迷いなんて一切見えない。どこかスッキリしたような表情を浮かべて、やる気に満ちていた。
「蒼も、俺がプロになったら必ず応援しに行くって、それまでは死ねないって。がんばって病気と向き合うから、おまえもがんばれって言ってくれた。だからっ、今度は俺が……あいつの生きる意味になろうと思う」
切っても切れない二人の絆の深さを感じた。二人の間にはツラいことや苦しいこと、悲しいことがたくさんあった。
回り道をしたけど、ようやく乗り越えられたんだね。
そんな水野君と蒼君は、きっともう大丈夫。なにがあっても、絶対に。
「二人をずっと応援してる。この先もずっと」
水野君なら、必ず夢を叶えられる。だからがんばってほしい。私はいつでも、どこまでもそんな水野君を応援したい。蒼君のことも。
「それに、俺は……もう二度と、夏目に情けない姿を見せたくない。あの時の俺は、熱でおかしくなってたんだ……じゃないと、俺が人前で泣くはずがない」
水野君はバツが悪そうにポリポリと人差し指で頬をかいた。
「え?」
待って。
は?
熱……?
人前で泣くはずがない?
も、もしかして——。
「忘れた振りをして悪かったと思ってる。あん時の須藤んちでのこと……はっきり覚えてるんだ。あんな醜態をさらしたことが恥ずかしくて、忘れた振りをしてた」
水野君はよっぽど恥ずかしかったのか、最後にはうつむいてしまった。
「ええっ!?」
お、覚えてたの?
ウソでしょ!
だって、あの時……私、私は。
水野君になんて言った……?
好きだって言ったよね。
「……ごめん」
「あ、ううん、全然いいんだけど……!」
待って、ちょっと待って。
あの時私が好きだって言ったことも、覚えてるの?
だとしたら、は、恥ずかしすぎる。ううっ。
徐々に頬に熱が帯びていく。自分から水野君に聞くことなんてできない。
気まずい空気が流れる中、しばらくの間沈黙が続いた。
「だから、俺……強く、なるから。好きなものを好きだって、胸を張って言えるようにする。だから——」
水野君は私の耳元に唇を寄せた。
「それまで、待っててくれる?」
その言葉にどんな意味が含まれているのかはわからない。
でも私は、待とうと思う。
たとえ、どんな結果になろうとも。



