「ま、待ってよ!」
教室を出た水野君の後を追って、とっさに制服の裾を掴んだ。引き止めてなにを言うかなんて考えてない。体が勝手に動いていた。
「なんだよ?」
足を止めて水野君が振り返る。その顔はどこか不機嫌そう。そして、迷惑そう。
「…………」
ど、どうしよう。
「あ、えっと。引き止めたものの、話すことを考えてなかった……」
えへっと、わざとらしい愛想笑いを浮かべてごまかす。
「はぁ? 人のことを散々バカだって言っといて、それかよ」
「うっ、だって……」
久しぶりにこっちを見てくれたことが嬉しかったんだもん。
「練習も楽しそうでよかったな。これからは、佐々木に手取り足取り優しく教えてもらえば?」
「え、あっ……ちょっと」
勢いよく腕を振り払われたかと思うと、キツく私をひと睨みしてから水野君は行ってしまった。
今までに見たこともないような冷たい瞳。怒っているようなくぐもった声。
もう完璧に嫌われてしまっている。その事実を改めて突きつけられ、胸が張り裂けそうなほど痛かった。
これ以上、なにをどうしろっていうの。私はそこまで強い心を持っていない。
もう関わらないほうがいいのかな。
そのほうが水野君も苦しまないで済むのかもしれない。中途半端に私が関わったせいで、傷をえぐることになってしまった。
ここまで水野君を追いつめたのは私だ。
そう考えたら、じわじわと涙が出てきた。でも、こんなところで泣くわけにはいかない。泣きたくなんかない。
下を向きながら涙をこらえ、その場から駆け出した。走っている途中で涙が頬にこぼれ落ちたけど、制服の裾で何度も何度もそれを拭った。



