「うっせーな、夏目には言われたくねーよ」

ムッと唇を尖らせる水野君。でも、もう怖くはない。

「とにかく、ダメだからね。今日だけは、私の言うこと聞いてもらうよ」

珍しく水野君は私の言葉に従った。

着替えを済ませてから家を出て、駅に向かう途中で総合公園に立ち寄る。

「水野君、帰って休まなきゃ!」

「いいだろ、じっとしてたら体がなまって仕方ねーんだよ」

「もう!」

水野君はスタスタと公園の中を歩いてグラウンドへと向かう。病み上がりだというのに、隅に置いてあった忘れ物のサッカーボールを足で蹴り上げ、リフティングを始めた。

トントンと軽快な音を立てながら、ボールを自由自在に操る水野君。時には頭でヘディングをしたり、そのボールを足へと戻したり。一度も落とすことなく、まるで足にボールが吸いついているかのよう。

「す、すごい……」

簡単そうに見えるけど、ここまで続けるのってすごい技術だよね。相当うまくなきゃ、できないはず。

水野君はなにもなかったようにケロッとしているし、昨日のことは熱のせいで意識がもうろうとしていたこともあって覚えていないんだろう。

じゃなきゃ、こんなに普通にしていられないはずだよね。

私の告白も、なかったことになっちゃった。