「えーっと……だから、それはちが」
「往生際の悪いヤツだな」
最後まで言わせてもらえず、その上聞く耳さえ持ってもらえない。
見ず知らずの人に、どうしてここまで言われなきゃいけないんだろう。
この世で一番嫌い……とか。
往生際が悪いとか。
そんなことを言われたら、いくら知らない人からの言葉だとはいえ、ちょっとヘコんでしまう。
それに、他人からこんなに冷たい目を向けられるのは初めてで、なんとなく萎縮してしまう。
完全に私が悪者で、居心地が悪いったらない。
早くここから立ち去りたいけど、このまま誤解されっぱなしは嫌だ。
私は意を決して拳をギュッと握りしめた。
「ほ、ほんとに違うからっ! 私は桜を撮ろうと思っただけなんだからね! だいたい、あなたにだって今日初めて会ったんだし、そんな人にストーカーなんてするはずないでしょ!」
自惚れないでよ!
そこまで言ってやりたかったけど、見ず知らずの、ましてや体の大きい男子を相手に喧嘩を売るようなマネはできなかった。
どんな反応が返ってくるかわからないし、力じゃ勝てないからね。
「じゃあ、そういうことだから」
それだけ言うと、私は踵を返して来た道を引き返した。
背中に突き刺さる痛いほどの視線。
男子の顔は見れなかったけど、きっと同じように軽蔑の眼差しでこっちを見ているんだろう。
それにしても……。
私がストーカーだなんて、冗談じゃないよ。
ほんと、意味わかんない。
考えれば考えるほど、後になってじわじわと怒りが込み上げた。
一方的に決めつけて、人の話も聞かないなんてありえないよ。
カッコいいって思ったけど、中身は最悪じゃん。
ああ、もう!
すごくムカつく。
せっかくの入学式なのに、気分が台無しなんですけど!
撤回。
カッコいいなんて思ったのは、なにかの間違いだ。
ありえないよ、あんな性格の悪い人。
根性がひん曲がってるんじゃないの?
相当なナルシストだよね。
あーもう!
考えたらムカつくから、思い出したくない。
知らないよ、あんなやつ。
そう言い聞かせて歩を進め、クラス表の人だかりの中に混ざって蓮と百合菜の姿を探した。