「でも……」
「あいつ、自分の意見をのみ込むところがあるけど、桃だっけ? あんたの前ではズバズバ言ってたし。誰かとケンカするなんて初めてのことだと思うんだ」
「ケンカっていうほどのものじゃ……私が一方的に嫌われているんです」
「麻衣は理由もなく人を嫌いになるような奴じゃない。それだけは兄である俺が保証するよ。だから、あいつの話を聞いてやってくんねーかな?」
「それは、はい……」
この状況で帰ることなんてできない。
「大丈夫だから」
お兄さんにそう背中を押されて、私は麻衣ちゃんのあとを追いかけた。偶然出会ったとはいえ、まさかこんなことになるなんて。
冷たい風がサーッと通り抜ける。木が大きく揺れて、葉のこすれる音がした。
「こっちだよ」
麻衣ちゃんは公園の隅にあるベンチに座って、私を手招きする。私はゆっくり麻衣ちゃんの隣まで行き、同じように腰かけた。
緊張するし、不安がないといえばウソになる。でも、ちゃんと向き合おう。もう逃げたくない。
「夏祭りの時に、見ちゃったの」
なんの前触れもなく、麻衣ちゃんが話し出した。
「夏祭り……?」
なにを見たの?
なんの話をしてるの?
わけがわからなくてポカンとなる。



