雲の隙間からお月様が顔を出し、辺りが明るくなった。さっきまでとはちがって暗闇にも目が慣れ、女の子の顔がはっきり見えた。
——ドクン
「麻衣、ちゃん……?」
はぁはぁ、ゼェゼェと苦しい中で麻衣ちゃんと目が合った。ジーパンにスニーカー、ベージュのトレンチコート姿の麻衣ちゃん。
「私、こんなに全力で走ったの初めてなんだけど……っ!」
「あ、ご、ごめんね! 早く逃げなきゃと思って、それで、つい」
「桃ちゃんって……相変わらず猪突猛進だよね」
「ご、ごめん……」
なぜだか責められているような気になって、ついつい謝ってしまった。
「とにかく、ここから離れなきゃ! あの男が追いかけてくるかも!」
そう思ったら居ても立っても居られなくなって、再び麻衣ちゃんの腕を掴んだ。
「待って待って、大丈夫だから。っていうか、私もう走れないよ」
「じゃあ、私がおぶってあげる。早く逃げよう」
麻衣ちゃんは華奢だから、きっと私の力でも大丈夫なはず。うん……多分。火事場の馬鹿力ってやつにかけるしかない。
「ほら、早く私の背中に乗って」
「ぷっ……あはは」
「笑ってる場合じゃないよ! 早く!」
こんな状況なのにお腹を抱えて笑っている麻衣ちゃんはのんきというか、危機感がないらしい。