こんなに見つめていたらさすがに気づかれるんじゃないかと思ったけど、彼はただ目の前の桜を見上げているだけ。


ダメだ、見惚れている場合じゃない。

もう少し桜を目に焼きつけなきゃ。

彼のことは、気にしない気にしない。


だけど——。


無表情で淡々としている男子は、桜を見ても感動するどころか笑うこともせず、感嘆の声をあげることもない。

切なげで、儚げで、そして寂しそう。


普通なら、ちょっとぐらい表情がゆるんだりするよね?

だけど彼は眉ひとつさえ動かすこともなく、どちらかというと楽しくなさそうな顔をしている。

この人はなにを思いながら桜を見ているんだろう。

見ていて楽しいのかな?


その時——。

ひときわ強い風が吹いて、桜の木がザワザワ揺れた。

上から桜の花びらが落ちてきて、あたり一面がピンク色に包まれる。

「あ……」


思わず小さな声がもれた。

すると、その声が届いたのか、男子の視線がゆっくりと私に向けられて。

無表情でなにを考えているかわからないその瞳が、私を捉えた。

鋭く射抜くような目つきと、一文字に結ばれた唇。

無造作にセットされた彼の髪が、風になびいて揺れている。

なんて澄んだ目をしているんだろう。

心の奥の深い部分を見透かそうとするような、まっすぐな瞳。

なぜだかわからないけど、その力強い瞳に吸い込まれそうになった。

ダ、ダメだ。

緊張して、顔が見られない。

ドキッとしたのもつかの間、スマホを持っていないほうの人差し指が画面に触れた。

——ピコン

「え……?」

な、なに……?

聞き慣れない音に困惑する。