「桃!」
改札を出たところで、後ろから蓮に声をかけられた。どうやら同じ電車に乗っていたらしい。
蓮はあっという間に私の隣に並び、横目にちらっとこっちを見て笑顔を浮かべる。
「一緒に帰ろうぜ」
「……うん」
一人でいたい気分だったけど、一人でいると心がぐちゃぐちゃになりそうで。蓮といることで、ギリギリで平常心を保てた。
「あ、そうだ。こないだ英語の小テストがあっただろ? できたか? かなり難易度高かったけど」
「あ、うん」
「マジ? すげーじゃん」
「うん」
「俺、一問だけまちがえたんだよな。悔しいわ」
「うん」
それでも蓮の言葉に相槌を打つだけで、話がまったく頭の中に入ってこない。
いつもならふざけあったりしながら帰るのに、気分が乗らない。
モヤモヤ、ドロドロ、ズキズキ、ヒリヒリ。今の感情を言葉で表すのはすごく難しい。
「なんだよ、らしくないな。なんかあった?」
いつでも蓮は私のちょっとした変化に気づいてくれる。だけど今日はいつもと違いすぎるから、すぐに気づいたんだと思う。
心配そうに眉をひそめて、まじまじと私の顔を覗き込んでくる。
「なんもないよ。あったとしても、蓮には言わない」
「俺らの仲だろ? 隠すほうがおかしいって」
「いろいろあるんだよ。いろいろ」
蓮に言えないことが増えていく。



