「今の桃には、わからなくていいんだよ」

蓮はそう言うと、今度は私の肩に手を回してヘッドロックをしかけてきた。

「く、苦しいっ」

そうは言うものの、その腕には全然力が入っていなくて、手加減をしてくれていることがわかる。

こんなじゃれ合いは私たちの間では普通のことだけど、他の人が見たら仲良しのカップルに見えるのかな。

水野君にも勘違いされちゃうかもしれない。

それはやだ。

「もう、ほんとやめてー。蓮ってば、子どもなんだから」

蓮の腕から逃れて後ろを振り返る。すると、そこに水野君の姿は見えなかった。

目を凝らして辺りをキョロキョロしたけど、どこにも見当たらない。

「帰ったんじゃねーの?」

「え、でも……」

さっきまでそこにいたから、どこかに行ってるだけなのかもしれない。

とりあえずさっきまでいた場所に戻ったけど水野君はどこにもいなくて、どうしようかと頭を悩ませていると。

「連絡してみれば?」

「あ、そうだね!」

蓮に言われてスマホを取り出して画面を開いた。

「あ……」

メッセージがきてる。しかも差出人は水野君。

『そいつがいれば俺は用なしだよな。先に帰るけど、夏目も気をつけて帰れよ。それと、今日は楽しかった』

もう帰っちゃったってこと……?

落胆半分、嬉しさ半分。私といて楽しかったって言われたのは初めてかもしれない。

いや、私じゃなくて瑠夏ちゃんがいたからなのかもしれないけど、それでもすごく嬉しい。