目の前に座る光星は、じっとわたしの話に耳を傾けていた。

「じゃあ、その健一くんが千歳の今を作ってくれたんだ?」

「そう」

わたしはコーヒーの入ったマグカップをテーブルに置き、時計を見た。11時。

あれから、わたしは歌手になるきっかけとなった出来事を、約2時間に渡って話したのだ。

「もう遅いし、シャワーでも浴びたら?」

すると彼は体を動かした。

「じゃ、お言葉に甘えて」




彼がバスルームに入ったのを確認すると、わたしはタンスを開けた。

そして、元カレのパジャマと下着を適当に取り出し、脱衣所に置いた。

しばらくして、洗濯をしようと再び脱衣所に入った。

彼のことを多少疑っていたわたしは、彼の服のポケットを探ったけど、何も出てこなかった。

身分証も持っていないようだ。

ただ、赤色の宝石のついたペンダントが、洗面台に置かれていた。

少しくすんでしまったそれは、もう輝きを取り戻すことは無いのだろう。



水の音が止んだ。

わたしはそっと、脱衣所から出た。