そんな事をしているうちに、自宅のアパートに着いてしまった。

「ここ」

最上階である3階の1号室の扉の前で、光星に言った。

「ほう、ここが千歳の家、か」

築30年近くなるこのアパートは、もちろんオートロックなどないし、駅からも遠く、普通に考えて若者は住まないであろう物件だ。

ただ1つ、『防音室』がある、ということだけで、わたしはここに住むことを決めた。




わたしはポーチから鍵を取り出し、差し込み、回した。

カチャッと乾いた音がして、鍵が開くと、わたしはギシギシいわせながら扉を開けた。

「お邪魔します」

言いながら、光星が部屋に上がり込んでくる。

1LDKのこの部屋には、デビューした時から使っているギターだったり、今までにリリースしたCDが所狭しと置いてある。

光星は早速興味を示し、

「千歳って歌ったりするの?」

と訊いてくる。

「まぁ…うん。一応シンガーソングライターだよ」

「わぁ、凄いね!」

「…そうかな」

「で、どうして歌手を目指そうと思ったんだい?」

いきなり核心を突いてくる。

あれはいつだっただろうか。

わたしが歌手を目指そうと思ったあの日は…。