「冬月ちゃんは、ここ初めて?」

「うん」

書店を後にした僕たちは、動物園に来ていた。

冬休み中の為か、親子連れが目立つ。



久しぶりに見るゾウの迫力に圧倒されたり、パンダの赤ちゃんに癒されたり。

とても楽しい時間を過ごした。



気がつけば、もう日が落ちかけている。

彼女との時間は、本当にあっという間に過ぎていく。

閉園が近づいた園内の、広場のベンチに腰掛けた。

「今日、楽しかったな」

「うん。楽しかった」

「パンダの赤ちゃん、可愛かったな」

「可愛かった」

何か言うと、返してくれる。

そんな小さな事が、嬉しかった。

隣を見れば、彼女が遠くの動物たちを眺めている。

しっかりと上げられた睫毛に、少し上向きの耳。

薄紅色のくちびる。

その横顔を見て、僕は改めて冬月ちゃんが好きだなって思った。



いまなんじゃないか?

このままの関係で過ぎていくのは、嫌だ。

でも、僕はそんな勇気が出せなかった。

だけど、彼女が“待っている”気がした。

それが伝わってきた。

「冬月ちゃん」

だから、僕は言うよ。

彼女は、何が始まるか理解し、覚悟するような間を置いて、振り向いてきた。

「僕と、付き合ってください」

生まれて初めて言う言葉だった。

彼女はすうっと息をして、

「はい」

と言ってくれた。