「…何でベースだったの?」

「音が、凄くかっこいいなって思って。あと、演奏してても、見られてない感が楽だし」

「見られてない?」

「きっとお客は隣で歌ってる人の方を見てるからね。それか、その隣のギターの派手なプレーを見てる」

「そうかなあ…。じゃあ、ボーカルの時は、ああ、見られちゃってるって思うの?」

「いいや。隣のギターやベースの方見てるんだって思って歌ってた」

あたしは笑ってしまう。

笑いながら、ちょっと悲しくなる。

今、「歌ってた」って過去形だったのは、そうだったのは、サヤトが現れる前までのことだって意味なんだって思
ったから。


サヤトが現れてからは、自分が歌うことはなかったし、


サヤトがいなくなった後は、歌ってないんだと思う。

「あ、見たことないって言ったよね」

立ち上がる。

やっぱり飲み方が下手なので、早くも回ってて、ちょっとフラつく。

「オレの部屋」