藤堂さん家の複雑な家庭の事情

これが世にいう「反抗期」なのかと狼狽し、その対処法に悩み、客の話を半分以上聞き流す始末だった。


確か自分も歩んできた道のはずなのによく分からないのは、翡翠の場合「反抗する」という事がなかった所為かもしれない。


親には放任されていて、外でも案外好き勝手する事が出来た翡翠には、「反抗するもの」がないお陰で自覚するほどの「反抗期」というものがなかった。


だから狼狽した。


対処法に困った。


このまま放置する訳にはいかないと、それだけは理解出来た翡翠は、家に帰ったらもう一度冷静に藍子と話し合おうと決めた。


――が。


家に帰るとリビングに藍子の姿がなかった。


学校があろうがなかろうが、後から二度寝しようがそのまま起きてようが、毎朝翡翠が帰る時間にリビングで待っている藍子の姿がなかった。


でも一応、ここまでは翡翠にも予想は出来ていた。


もしかしたらリビングにいないかもしれないと思ってはいた。


だから翡翠はそう怒りが湧き上がってくる事もなく、階段を上がり、藍子の部屋に向かって、そのドアを開け――。


「な……!?」