藤堂さん家の複雑な家庭の事情

「藍子ちゃん」

「……」

「なあ、藍子――」

「……」

「――てめえ、いい加減に洗いざらい喋りやがれ!」

やっぱり所詮は藤堂翡翠である。


いくら頑張ってもそう長く、「太陽」の態度は続かない。


あっという間に「北風」に豹変して左右の眉をこれでもかというくらいに吊り上げた。


一度抑え込んでいた事でさっきよりも更に怒りが増した翡翠は、全くこっちを見ようとしない藍子の態度に怒りが沸点に達し、


「いい加減にしろ!」

ドンッと、藍子の座るソファを蹴った。


藍子に怪我をさせようとか、藍子を蹴りたいと思った訳では決してない。


怒りの矛先がたまたま目の前にあったソファに向けられただけの事で、「物に当たる」という事は翡翠だけに限らず誰にでもある事。


だがその行動が、怖がっていた藍子の心に及ぼした影響は多大なものだった。


蹴られた拍子にソファと一緒に少し動いた藍子は、「わっ!」と大声で泣き出した。


未だそっぽを向いたまま。