「琢ちゃんダメ! スーツに香水ついちゃう!」

「ぎゃあ! ベチョベチョになった!」

新たなる惨事を引き起こす羽目になった。


「琢ちゃん! 早く洗わないとシミになる!」

「ええ!? 香水ってシミになんの!?」

「分かんないけど、なると思う!」

「ええ!? って、臭い! 鼻痛い! 目ぇ痛い!」

「窓、窓開けなきゃ!」

「うわああ! 服臭い! すげぇ臭い! どうしよう!!」

「早くお姉ちゃんに!」

「母ちゃんに怒られる!」

「でも早くしないと――」

ぎゃあぎゃあと騒ぐふたりはそこでピタリと動きを止めた。


実際は「止めた」というより、バンッという大きな音と共に部屋のドアが勢いよく開いた事で「止めざるを得なかった」。


驚いて動きを止めたふたりの視線の先。


大きく開いたドアの向こうに翡翠がいる。


騒々しさに目を覚ました翡翠は、まだ眠り足りない様子で見るからに機嫌が悪い。


その機嫌の悪い翡翠の目が、藍子、琢、床の順番に動く。