「藍子、明日も髪の毛してくれる?」

「明日?」

「お祭りに行く時」

「その時は、お兄ちゃんにしてもらえばいいよ」

「翡翠君してくれるかなあ?」

「言えば絶対してくれるよ。お兄ちゃん、琢ちゃんの事大好きだから」

「そっか」

にんまりと満足気に笑った琢は、藍子が髪をセットしている間、鏡に映る自分の姿を見つめていた。


不器用な藍子がセットする髪は、翡翠のようにはなっていないが、それでも琢が自分でする時よりはいくらか翡翠の髪型に近い。


徐々に形になっていく髪を見つめる琢は、ニヤニヤとしてご機嫌だった。


――が、そのご機嫌さはすぐに消える。


「琢ちゃん、こっち向いて。前するから」

藍子のその言葉に「おう」と返事をして振り返った直後、琢は腕に何かが当たったのを感じた。


実際は、振り返る「途中」だった。


チェストの上を通るように上げた肘が何かを倒した。


けれど勢いよく振り返った所為で、当たったと思っても動きを止める事が出来ず――。