巻き込まれる藍子は、「巻き込まれてる」とは思っていない。


藍子本人は甥っ子の遊戯《ゆうぎ》に付き合い、子守りをしているつもりだったりする。


でも子守りにしては、


「大丈夫だって! バレないから!」

「今までバレなかった事は一度もないよ!」

「カタい事言うなよ、藍子」

「またあたしも一緒に怒られちゃうよ!」

いいように振り回されている。


因みに現在、翡翠は藍子の部屋で就寝中で、心実はキッチンで昼食を作っている。


即《すなわ》ち、琢を止めるのは藍子しかいない。


――のだが。


「1回だけ! 1回だけ!」

「えー?」

「本当に1回! 1回だけ!」

「んー、じゃあ、本当に1回だけだよ?」

藍子にその役割は務まらない。


藍子は琢が指差す先の、クローゼットの中にあるシャツを手に取った。


肌触りのいいシャツは、タグを見なくてもブランド物だという事が分かる。