幼い琢にとってはいまいち事態が把握出来ず、怖いとすら思うその状況の中、


「お前ら……」

爆睡していると思ってた翡翠が嗄れた声を出した事で、トワ以外の全員の視線が翡翠に向けられた。


うつ伏せ状態の翡翠は、ほんの少し顔を上げ、虚《うつ》ろな目で家族を順番に見遣ると、もう一度「お前ら」と言う。


そして。


「藍子の補習が全部終わったら家族で旅行に行くぞ」

それだけ言うとパタリと顔を廊下につけ、「藍子、もっと色気のあるパンツ穿け」という言葉を最後に動かなくなった。


誰もがポカンとして、藤堂家の廊下には暫くの間沈黙が続いた。


翡翠とトワは鼾を掻いて、すっかり眠りこけている。


その状態を打破したのは、今回、一番状況を把握したいと思っていたのに、一番状況を把握しきれていなかった心実。


「はあああああ!?」

心実の怒りの叫びは、廊下の床をビンビンと震えさせるくらい大きなものだった。