「何で琢がいる? 幼稚園はどうした?」

今更ながらの事を口にした。


「オレ、夏休みだよ?」

「あー、そうだったか」

「昨日も一昨日も家にいたのに覚えてない?」

「あー、そうだったな」

珈琲を啜《すす》りながら頭をガシガシと掻く翡翠は記憶さえも覚束《おぼつか》ない様子で、


「藍子はどうした?」

なんて事を言ってくるから、心実はいよいよ兄が絶対的におかしいと思い始めた。


兄の翡翠は、おかしいと言えば普段からおかしいのだが、今日はいつもと何か違う。


どこがどうというよりは、全体的に違うという感じ。


だからこれといった指摘も出来ず、


「藍子は補習でしょ。朝から準備手伝ってたじゃん」

翡翠の近くに立ったまま気だるそうなその姿を見下ろした。


「あー、そうか。補習か」

「今朝の事、覚えてないの?」

「忘れてただけだ。今、思い出した」

「あんた、まさか変なクスリやってんじゃないでしょうね」