木津音くんは学校で有名な人だった。

常に成績は学年トップ。
1度もその席を譲ったことは無い。

なのに、勉強しているところは誰も見たことがないようだ。

他の生徒からの信頼も大きくて、先生達にも好かれている。

その上、帰宅部なのに運動神経も抜群にいい。

欠点が見当たらない、そんな人。

学校で見かけるとつい目で追いかけてしまうほど輝く綺麗な髪は、風によって柔らかくなびいた。


そんな木津音くんが、

目の前に。

思考が停止して、返事ができない。

.....どうしよう。

「おーい。おーい古都里さーん。」

木津音くんに名前を呼ばれて、ハッと我に返る。

「ごめんなさいっ」

そう深くお辞儀をすると、木津音くんはふにゃ、とつり目を柔らかく細めた。

「いいよいいよ〜。古都里さん小柄だから潰しちゃったと思ったよ〜!」
と、にこにこ話す。

緊張のあまり、
「そうなんですね、すみませんっ!」
と会話が成り立たないまま、走り去ろう。


そう思ったのに。

「ねぇ、この前も俺のこと見てたよね??」