――瞬間。

近くにあった氷の結晶が、大きな音を立てて砕け散った。
 
それも一つや二つではない。

連鎖していくかのように雪原に散らばった結晶たちは次々と砕け散り始めて……

たちまち氷の破片がそこら中に散りばめられた雪原の真ん中で、イブは空を仰ぎながら悲しそうに言う。

「ごめんね……私が描いてあげるのが間に合わなかったせいで。ごめんね」

「そんな……そんな……!」
 


真冬は目の前の幻想的でありながら怯懦すべき光景に声にならない声を上げ、虚空へ手を伸ばす。

「どうして、こんなことに……!」

「私の正体を知ってしまったからだよ。この世界の正体を知ってしまったからだよ。……ねえ、お兄ちゃんはそんなにこの世界のことを壊したかった? そんなに私たちのことが憎かった? ――ねえ、答えてよ!」

「違う……違う……!」
 
結晶がまた一つ……また一つと砕け散るたびに、真冬の中に記憶が流れ込んでくる。

「やめて……!」
 
誰からも理解されない現実。

「お願い……!」
 
自分を罵り責め立てる人々。

「僕を、責めないで……!」
 
苦しみのあまり、飲み込んだ錠剤。
 
全てが混ざり合って、溶け合って、真冬の中になだれ込んで――

あまりの苦しみに真冬が倒れこんだ、その瞬間。
 
バリン――と。

イブが今まで描いていた女性の結晶が、跡形もなく砕け散った。

「あ……あ……!」

「ごめんね……やっぱりお姉ちゃんも、間に合わなかったね」
 
真冬が倒れたまま茫然と見つめる中、イブは虚空へ消えていく氷の破片を寂しげな表情で見送りながら言い……その一言が、真冬の中の何かを壊した。



「あ、あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」