イブは氷の中の女性に向かって嬉しそうに声をかけると、持ってきていた画材道具を広げていつもの様にデッサンを始めた。
 
真冬もしばらくその隣に立ち尽くしていた後、大きく白い息を吐いてから近くに突き出ていた石の上に腰を下ろした。
 
何時間が、経っただろう。
 
いつのまにか当たりにはちらほらと、イブと初めて会った日と同じような粉雪が舞い始めていて、真冬のグレーのコートの肩や頭に降り積もった。

イブは綺麗な銀髪に雪が付くのを気にも留めずに、先ほどから一心不乱に、そして楽しそうに絵を描き続けている。

「イブ……今日の君は、いつもより楽しそうだね」
 


そんな彼女を見て真冬がふと口にすると、イブはこちらを振り返って木漏れ日のような笑みを浮かべた。


「当たり前じゃん。だってこの人は、私のお姉ちゃんなんだから!」


 ――一瞬、時が止まった気がした。

「え……?」
 
真冬は信じられないものを見る目つきで彼女を見返し、立ち上がった。

「イブ、悪い冗談はやめてよ」

「冗談じゃないよ。この人は正真正銘、やっと見つけた私のお姉ちゃんなんだもん。楽しくないわけがないじゃない!」
 
そう言って、また子供のような笑顔を浮かべるイブの無邪気な顔と……氷漬けにされた銀髪の美しい女性の顔がぴったりと重なって……
 
その瞬間、真冬の中で何かが弾けた。

「……ふざけるな!」
 
真冬は無我夢中で叫ぶと、イブに詰め寄ってその襟首を掴んだ。

「マ、マフユ!? 放して、痛いよ!」

「楽しくないわけがない、だって!? そこで氷漬けになっているのは君の家族なんだぞ!? それなのにどうして君は、平気な顔でそんなことができるんだ!?」
 
しかし……それを聞いたイブは、その目に虚ろな色を宿して真冬を見返しながら無感情な声で答えた。

「……マフユに言われたくないよ」

「何だって? どういう意味だよ!」

「だって――お姉ちゃんをこんな風にしたのは、マフユでしょ?」



「……え?」