イブが毎日ほぼ決まった生活を送る一方で真冬は何をしていたかというと、あてどもなく思索に耽るばかりでこれといって特に何もしなかった――いや、できなかったという方が正しいだろう。

出来ることといえば、ただひたすらこの世界の存在理由やイブに言われた言葉の意味を考え、そして常にイブと行動を共にすることくらいだ。

それは決してイブの理念や行動原理に賛同しているからではなく、純粋に彼女のことを知りたいからだった。

彼女のことを深く知れば、何故自分はここにいるのか……そして何故この世界を出るには彼女を殺さなくてはならないのか。

それが分かる気がしたのだ。
 
しんしんと雪が降りしきるあくる日の午後もそうだった。
 
その時イブは雪原に出ていつも通り氷漬けにされた人々をカンバスに描いていた。

今日描いているのは、イブと少し似た綺麗な銀髪をした美しい女の人だ。

それをイブは鼻歌交じりでさも楽しそうに描いていた。

そのあまりに能天気な彼女の姿を隣で見ている内に、次第に真冬は腹が立ってきた。

「……どうして君はそんなに楽しそうに絵を描いていられるの?」
 


真冬が思わずそう言うと、イブは鼻歌をやめて不思議そうに真冬を見返した。

「どうしてって、それは楽しいからに決まってるじゃない、マフユ?」

「こんな死んだ世界で物言わぬ人々を延々とデッサンし続けることが、か? そんなの絶対に間違ってるよ! もっと色々と調べて、この世界を出る努力をすべきだ!」

「マフユはその努力をしているの?」

「ああ、毎日頭が痛くなるくらい考えてるよ! でも何も分からないんだ! 君は多分、長い間この世界にいたせいで酷く歪んでしまっている。だから、こんなことを続けていても平気でいられるんだ……!」