「行かないでっ……お願いっ……」

有紀は寝言を言いながら、何かを掴もうとしているのか少し手を上げた。

「し、心配させないから……っ」

有紀の体は異常な量の汗を噴き出している。

「嫌あぁぁっ!」

有紀が勢いよく起き上がった。

俺に気づいた様子もなく、肩で息をしている。

「大丈夫か?」

「っ!」

有紀は俺を見た。その目が驚きで見開かれ、涙を流した。

俺は有紀を抱きしめた。

「ごめん、さっきは言い過ぎた」

有紀が俺を強く抱きしめて、嗚咽がまじりに言った。

「ごめんなさいっ………和海の事何も考えてなくてっ……和海がどんな気持ちで私を見てたのかとかっ……」

「ああ」

苦しそうに息をする有紀の背中をさする。

「これからはもうしないからっ…………ゆ、許して下さいっ……」

「許す。たっぷり反省したようだしな」

俺は有紀を一旦離して親指で涙を拭った。

「ほら、正樹達が来るぞ。早く顔洗ってこい」

「分かった」

有紀はコクリと頷いてパタパタと洗面台に向かった。