見た目の風合いからして、希少な木材と弦(つる)を使っているのではないだろうか。確かエルドシータが暮らす地域には、特別な木があったと記憶している。

「右から牽制してくれ」

「了解した」

 大きく右に迂回する。鹿は立派な角を持つ雄だ。ここで仕留めねば、腹一杯の肉を食べるという我の願いが果たされぬ。

 我の威光で鹿をひざまずかせる事は可能であるがしかし、それではシレアの旅の邪魔になってしまう。

 我は、あくまでも旅の道連れなのだ。シレアもそのつもりで我に我が儘など一切、申す事もない。

 そうは言えども、我のしたい事のために破らねばならぬときは躊躇わずに破ろうぞ。人の規則に縛られる我ではない。

 背の低い木の草をのんびりと食んでおった牡鹿は、我の小さな足音に即座に頭(こうべ)をもたげて、周囲の気配を探り出した。