「つまりは幾度かはあったという事か」

 この者、成人の儀式を終えたその足で旅に出たと言う。それほど、外に出たくあったのか。

「集落が嫌という訳ではないよ」

「では、何故(なにゆえ)か」

 我の問いに、シレアは調理の手を止めた。

「そうだな」

 どうしてだか、己のなんたるかを知りたいという衝動に駆られた。

「ほほう?」

「旅をすることというより、世界の端々に興味があった」

 いま、こうしている間にも、私はこの世界に溶け込んでいる。

「それが強く感じられる」

 心地よいまどろみに身を委(ゆだ)ねている。

 されど、その心地よさに浸っていたいと思う次の瞬間には、己が何者なのかをふと考える。

「何故(なにゆえ)にそこまで己を知ろうとする」

「解らない」

 剣術も、魔法も、気がつけばそれなりに覚えていた。