久しぶりに草原で朝を迎えた我は、その清々しい空気に酔いしれておった。我に荷物は無し、シレアの支度を優雅に眺めている。

「馬はどうするつもりだ」

 旅の支度を終えたシレアがカルクカンに乗り、我を見下ろす。そうか、馬が必要だという考えに至っておらなんだ。

「見ておれ」

 我は草原を見渡し、指笛を鳴らす。甲高く澄んだ音は草原に響き渡り、我が求めたものが遠目に映る。

 黒みがかった赤褐色の馬は我の傍で止まり、その脚を活かすべく乗れと催促する。

「ほう。見事な黒鹿毛(くろかげ)だ」

 シレアが感嘆の声を上げた。

 当然である。我は長らく生きている竜なのだから、この世の動物は我を尊び、我の求めには応えねばならぬ。

 しかし、さすがはエルドシータ。青鹿毛との区別は難しいというのに、即座に黒鹿毛と答えた。

「さあ。ゆこうぞ」

 そなたの進む道を、我はしかとこの目に焼き付けるのだ。視界の端で溜息を吐く様子が見えたが構わぬ。


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