広い校舎内を歩きやっと理事長室に着くことができた。目の前には重厚そうな扉があり、理事長室と書かれたたプレート掛かっている。
勇気を振り絞って威圧感のある扉にノックすると中から男性の“入りなさい”という声が聞こえてきた。
扉を開けると中はトロフィーなどが飾られたショーケースや、大きな書斎用のデスク、応接用のテーブルとソファがあった。
そこで理事長らしき品の良さそうなオジサマが座り心地の良さそうなデスクチェアにゆったりと腰掛けている。
「失礼します。2年C組の桜田です。」
「ああ、すまないね、呼び出してしまって。君には少し話があってね。話と言ってもすぐに終わる。とりあえず掛けたまえ。」
理事長に勧められた応接用のソファに座ると、理事長は私の向かい側のソファに腰掛けた。
「学校にはもう慣れたかね?」理事長は穏やかな表情で尋ねた。
「いえ、あまり……。」
「それは君が一般家庭の出だからかな?」
サラッと出てきた言葉に体が強張る。
「………それはどういう事でしょうか。」
「そんなに見を硬くすることではない。君の事情はある程度聞いてあるからね。」
「ある程度といいますと?」
「それが、君が一般家庭の出身で訳あって藤原くんの養子になっているということくらいしか聞いていないのだよ。」
理事長はそこまで言うとぐっと身を乗り出した。
「聞くところによれば君は藤原くんの親戚ではないらしいね。それを養子にした上多額の金額をかけて、君の素性と君と藤原くんの関係隠し、うちの学校に入れて欲しいなんて、一体どういった風の吹き回しかね?」
「………理事長にお答えする義理は無いと思いますが……。」
「うむ。義理はないがこれでも私は一応学園内で君のことをフォローしてくれと頼まれているもので、知っていたほうが色々と根回ししやすいのだよ。」
理事長は意味深な笑みを浮かべて言った
「理由はそれだけですか?」
「ははは、君は鋭いね。もう一つ理由があるとすれば老いぼれの単なる興味かな」
本当にそうだろうか。疑問は深まるばかりだったが私は理事長室を後にした。

