ハッピーエンド

 
 席に着くとウエイトレスさんが完璧な作法で料理を次々と運んでくる。運ばれてくる料理はどれも美味しそうだ。
 料理が揃ったところで優と瞬はナイフとフォークを使い優雅に食べ始めた。
 私は食べない。フォークどナイフの使い方がわからないから………

 「食べないの?」

 「…………あまりお腹が減ってないので」

 「そう。」
 
 優は少し不思議そうな顔をしたがまた食べ始めた。

 「そういえば俺、自己紹介してなかったよな。
  名前は朝比奈優 普通に優って呼んで。」
 優は簡潔に言い終えると肘で瞬をつつき、自己紹介の催促をした。
 優の動作に不機嫌な顔をしつつ、瞬が口を開く。
 「神崎瞬だ。好きなように呼んでくれ。」
 
 「というわけで、教室の席が近い者同士仲良くしよう。」
 
 「え、優さんって席近かったっけ?」

 「ああ、桜田の一つ前だよ。あと、名前、優でいいから。」

 ええ!?そんなに近かったんだ!   まあ、顔が一切見れなかったからわからないのも当然かもしれないが………

 それからは優を中心に他愛のない話をした。瞬も時々会話に加わり、この学校のことをより知ることができた。
 そして、話の流れで私についてはなすことになった。
 
 「そういえば、桜田はどこの高校から来たの?」
 私はクラスメイトにもした話をすることにした。
 「田舎の高校です。知名度が低いので皆さんは知らないと思いますが………。」

 「どこの県?学校名は?」

 クラスメイトからはここまで詳しくは聞かれなかったのに………。
 背中に冷たい汗が流れた。

 「…………群馬の、白河高校、です 。」

 白河高校は私の実際に通っている東京の学校。群馬はとっさについた嘘である。
 うまく騙せたかな? そう思った矢先、瞬の言葉に背筋が凍った。

 「群馬にそんな高校は存在しない。」

 「………っどうしてそう言えるんですか?
神崎さんが知らないだけじゃ」

 「やめとけ。こいつの記憶力は尋常じゃないから。」

 恐る恐る優を見ると怖いくらいの無表情でこちらを見ていた。

 「やっぱり変だと思ったよ。クラスのやつと話してた時も妙にはぐらかそうとしてたし、バレるとなにか不都合なことでもあるの?」

 「…………」
 何も言えない。これ以上何か言えばまたボロが出そうな気がした。

 「まあ、いいや。それよりもここに来る前から俺を知ってたのはどうして?」

 あなたの載っている『青春の暁』を読んだからとは口が裂けても言えない。

 「それは……」

 「あのね、今日桜田の前で俺の名前を呼んだ人は一人もいないんだ。それなのにどうして知っているんだ、俺の名前を。

    お前は一体何者だ?」
 
 何も言えない。何も教えられない。優や瞬をハッピーエンドに導かなきゃダメなのに何もできない。
 
 「………ごめんなさい。」

 私は席を立った。そして、優と瞬の目を見ないようにして食堂を出た。