店員さんの姿が見えなくなると、流風が早速渋いデザインのメニューを開く。


「何食べる?」


「…うーん。どうしようかな」


7年前ならすぐに自分の食べたいものを頼んだだろうけど、今はそうもいかない。


第一、女の子が男の子よりさきにメニューを決めるのって、どうなんだろう。
女の子らしく、野菜多めのメニューが良いよね。


そんな外面ばかりを気にしてしまい、結局なかなか決められない。

流風が私に聞いてきたはずなのに、さきにメニューを決めたのは、流風の方だった。
それじゃあ聞いてくれた意味がないように感じたけど、何だかそんなところも流風らしい。

しかも、彼の選んだ蕎麦の写真が美味しそうで、私は思わず身を乗り出す。


「私もそれにする!」


勢い良く言ってから、ハッと口を押さえると、流風はくすりと笑った。



中学の頃と、少しも変わらない無邪気な笑顔。


普段無気力に表情を変えない分、その不意打ちはずるい。


まるで昔に戻ったかのように、とくりと胸が鳴り、私は慌ててうつむいた。



さすがにこの歳で異性にときめくのは、まずい気がする。
もうそんな甘酸っぱい青春の時代は、終わったはずだ。



でも流風は、そんな私の気持ちなんか知らずに、呼び鈴を押す。


ちーん、と金属音が鳴り、しばらくしてからさっきの店員さんより歳上っぽい店員さんが来た。

年季の入った穏やかな愛想笑いで、注文を聞かれる。

ちら、と流風を見ると、おまえが言え、と言わんばかりに目をそらされた。


「ええと、じゃあ、天ぷら蕎麦二つで」


「お二つ?あ、ああはい。かしこまりました」


二つ、という言葉に、驚かれた。


そうだよね。二人ともおんなじメニューとか珍しいよね。
違うものを頼んで交換し合うとか思ったのかな。

……もしかしたら、付き合ってるとでも、思われたのかもしれない。



店員さんに注文を確認され、間違いがないことにうなずくと、彼女はにこやかな微笑をたたえたまま、通路を戻って行った。