「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


先に店に入った私に、女の店員さんがにこやかに聞いてくる。


「あ、2人です」


もう来ます、と後ろを振り向くと、ドアを閉めてくれた流風が入ってきた。

待ち合わせですか?とにこにこしながら聞いてくる店員さん。お店の前で待ち合わせをしていたカップルだと思われたのかもしれない。


なんて答えれば良いのかわからなくて、私は曖昧に笑って誤魔化した。

違います、とはっきり言った方が良かったかな。

不安になって流風の顔を見るものの、流風は流風だ。全く気にする様子がない。


良かった、と安堵していると、店員さんが席を案内してくれる。


流風は終始黙ったままで、それが何だか可笑しくて笑いをこぼすと、おい、と低い声で怒られた。
それすらも懐かしいと感じるんだから、時間ってすごいと思う。



案内されたのは、一番奥の個室の席だった。
床が畳になっていて、何となく落ち着く雰囲気がただよっている。




──ここは、7年前から変わらずにある蕎麦屋さんだ。

私はあんまり来たことなかったけれど、それでも昔からあるお店だというだけで、安心感がある。




女の店員さんが、営業スマイルを貼りつけたまま、ごゆっくりどうぞ、と頭を下げ、来た道を戻っていった。